一般公開
グループ
8
メンバー
趣味で小説書いてる人向けのグループです。相談や交流などに自由に使っていただければ。 ※同じようなグループがすでにありますが、あまり機能していないようなので作ってみました。管理人は週1くらいの頻度でログインします。
・練習 ・没になったもの ・思いついたものとりとめなく
などなど。
一週間の帰郷を終えて、ようやく戻ってきた自分の部屋は、やけに殺風景に見えた。良介は鍵をベッドに放り投げ、部屋の真ん中にどかっと座った。 (そういえば、テーブルすら置いてなかったな) 実家の居間には大きな丸テーブルがあって、必ず誰かとテーブルを囲って食事をしていた。先日帰郷したときには遠方からの親戚も集まっていたから、居間よりも広い仏間で、大きな長机を囲ったのだった。たった1日前の出来事が、もう遠い昔のようだった。 いつからこうなったのだろう。たしか、上京したときはもっと晴れやかな気分だった。部屋の中は今よりもはるかに殺風景だったけれど、こんな虚しい感情を抱くことはなかった。新しい家具が部屋の中に運び込まれていくと、いよいよ新生活が始まるのだという実感が、期待と一緒に押し寄せてきたものだった。 (テーブルも、それに他のものだって、そのうち買い揃えるつもりだったのに) 一週間、一ヶ月と経つうちに、だんだんと億劫になっていった。多少不便なことはあったけれど、暮らしていけないほどではなかった。そしていつの間にか、それが当然のようになっていた。
「季節が変わるね」 そう言った彼女に、僕は何と答えてよいのか分からなかった。 僕が目線をそらすと、その先には折りたたまれた車椅子があった。これが動いているところを、もう長い間見ていない気がする。あの日貼った「合格祈願」のステッカーは、まだ肘置きのところに貼られたままだった。 (こんなもの、貼らなければよかった) 彼女がどんな気持ちで毎日それを見ていたのかと思うと、僕の心はぎゅっと締め付けられるように痛かった。
頭の奥でカチカチと、金属がぶつかり合うような音が響いている。 目の前は真っ暗だった。手探りで周囲の様子をたしかめようとして、僕ははっと気づいた。 (手足の感覚がない……いや、そもそも僕は今までどうやって自分を動かしていたんだっけ) 筋肉を伸縮させて、関節の可動域内に収まるよう、手足を運ぶ。そんなことを僕は今まで、どうして何の苦労もなく行えていたのか。 頭で考えれば考えるほど、それはひどく難しいことのように思えた。 (僕はどうやって今まで、目でものを見ていたんだっけ。どうやって音を聞いていたっけ?) そこまで考えて、僕は首をかしげようとした。けれどそのやり方も分からなくて、ただ某人形のようにじっとしていることしかできなかった。ただ思考だけがぐるぐると頭の中に渦巻いている。 (何も聞こえないのに、どうして音が分かるんだろう) 頭の中の音は、まだカチカチカチカチと鳴り続けていた。